一匹狼と狼少女
「ほら、人魚。」
蒼は持っていた懐中電灯でプールの中で泳いでいる何かを照らした。
それは泳いでいる時は水音ひとつたてず、ターンする時に少し音が出るだけ。
「…人魚。」
「っぽい。」
そいつは、懐中電灯で照らせている事に気がついたらしく、途中で泳ぐのを止めた。
プールの中で立つそいつに俺は目を見開いた。
蒼は懐中電灯を持ったまま、俺の後ろに隠れた。
「…男。」
俺は呟く。
「だね。」
蒼は背中に張り付いていた。
人魚は男だったのだ。