一匹狼と狼少女

「離れがたい。」

龍也は静かに呟いた。

あまりにも素直な言葉に慌てる。

「…うん。」

アタシは龍也の首に顔をうずめた。

《朝ご飯の時間です…》

大きい放送の声に、体が揺れた。

「行くか。」

面倒だな、と龍也が体を伸ばす。

アタシは池の中を見た。

「鯉は食えないからな。」

「わかってる。龍也じゃないし。」

すこし馬鹿にされた気がして、イヤミを返した。

二人で部屋に戻る選択をした。

不意に、女将さんが壺を大事そうに抱えているのが見えた。



< 53 / 79 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop