ユピテルの神話


七色に光る街に白く霧がかかり、歪み始めたのです。

それは、この世界から去る事を意味しているのだと分かりました。


「…あの!…貴方!有り難う!…貴方の、お名前は…?」


彼の後ろ姿に、
そう問い掛けたのです。

返事をしては貰えないかもしれない、そう思いながらも…。


「先輩」と呼ばれた意味を、
僕は理解したかったのだと思います。



『…俺は、「ラディス」の名を継ぐ者…。時計は、確かに受け継いだよ…』


ラディス…
僕ト、同ジ…?


『…俺は、時間も空間をも越える存在。人の「運命」を正す者。運命を紡ぐ者…。哀しい運命を背負う者…』


その言葉の意味は、
この時の僕には分かりませんでした。


ゆらりと街は消え、
目の前には茶色の大地。

街は、消えていました。


「――っ!?」

一瞬だけ、頭が割れる様に痛みました。

次の瞬間から…、

僕は先程の彼が話していた「全て」を、理解してしまったのです。


「――…あぁ…」

彼の言っていた通り、
僕には、この世界を訪れる前の記憶が戻っていたのです。


「…ぁ…あぁ…!!」

その場に崩れる様に膝を付き、僕は両手で顔を覆いました。


僕ハ…

僕ハ…!!


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