ユピテルの神話
†心ヲノセタ天秤

†心をのせた天秤


「………。」

先程から森の主が僕に掛けていた言葉の中には、僕に答えを求める疑問が沢山含まれていた事に気付いたのです。

全ては僕を心配するエマの為。

彼自身、まさかこの様な内容の会話になろうとは想像もつかなかったでしょう…。

幸いにも、
僕は肯定をするだけで、彼に理由を話してはいませんでした。


「…おじいさん…風たち、お借りしますね…。」

『…あぁ…』

彼女は僕に気付かれているとは思っていません。

森の主の幹の裏側で、
声を漏らさぬ様に口に手を当て、震えているでしょう…。


僕は悩みました。

彼女に理由を話し、理解を求めて「別れる」べきか…。
このまま…、
彼女の顔を見もせず、「言って」しまうべきか…。


――顔ヲ見タラ、言エナイ。


「…僕はもう戻っては来ません。彼女を悲しませたくはない。彼女には幸せになって欲しいのです。だから…」

ザワッ
『――ユラ!?お前さん…』

エマが聞いているのに何を言い出すのだ、と森の主が慌てていました。
僕は「しっ」と口元に指を当て、森の主を見上げます。


――…分かっています。

だから、です。


< 114 / 171 >

この作品をシェア

pagetop