ユピテルの神話


「…ずっと、この山で月が重なる日を待っていた…。50年もかかってしまったわ?」


――貴女の未来を、貴女の幸せを願ったのに…―――


ポタ…
…ポタ…

あの月から、
雨が降り始めます。


「…あら。雨かしら。相変わらず、優しいわね。哀しまないで、ユラ。私の幸せは、私が選ぶ。こうなった事は、私が選んだ事なのよ…?」


ワン!ワン!

エマの傍らには、
白い犬竜が居ました。


「…この子を紹介しなくちゃ。この犬竜は、スプリウス・オリペ。いつかのロマちゃんの様に、私の哀しさの心が生んだ子…。だから寂しくはなかったのよ?」


犬竜を生む。
心を取り出す「力」…

長い時間を掛けて、
人々に分け与えた僕の力は、そんな事が出来るまでに育ってしまっていたのです。


「…ねぇ、ユラ。沢山話したい事があるのよ?聞いている?」


――…聞いていますよ。僕は此処に…――


どうして、
言葉が通じない僕を、彼女は感じる事が出来たのでしょう。

彼女の言葉は、
僕が此処に居る事に確信を持ち、僕に語り掛けていました。


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