ユピテルの神話
「…どうした?どうやってここへ来たんだ!?エマ。」
「もぅ!おじいちゃん!2日も帰って来ないから、お母さんが心配してるのよ?森の主がここへ通してくれたの。空間を曲げたとか…って言ってたわ。」
エウロパ・マーシュ。
通称、エマ。
ロマの孫にあたる幼き彼女は、生まれながら目が見えませんでした。
「…ユラもいるんでしょ?」
「ふふ。はい、ここに。長くロマをひき止めてしまいましたね…」
エマの瞳には、花畑の露も効果がありませんでした。
瞳は光を映しません。
僕がいくら世界を照らそうとも、彼女には世界が見えないのです。
しかし、そんな事を気にする様子もなく、彼女は明るく優しい女の子に育っていました。
「…はい、おじいちゃんに花の露を持ってきたのよ。」
エマはぎこちない手付きで、ロマに七色の花畑の露を渡したのです。
「…え…?」
その行為に僕は驚きました。
ロマがどこかを患っている事を知らなかったのです。
「飲まなくていいと言っているのに…。貴重な露を、こんな老いぼれに飲ませなくても…。エマが飲みなさい。」
「あたしはいいの!この目が気に入ってるって言ってるじゃない。」
ロマは困ったように笑っていました。