ユピテルの神話


「…ロ…マ…?」

僕は呆然と彼を見つめ、彼の言葉を待ちましたが、すぐに返事はありません。

『心配いらないよ』と、これまで通りに笑って欲しかったのに…。


「さぁ、エマ。おじいちゃんはもう少しだけユラとお仕事があるからな、先に一人で帰れるかい?」

「大丈夫よ!森の主も居るし。森の皆は色々助けてくれるもの!おじいちゃんも無理しないで早く帰ってきてね。」

「あぁ…有り難う。」

明るいエマがこの場を去ると、急に音が無くなりました。
静かでした。


「…はは、優しい子だろう?」

「……えぇ、本当に…」

ぎこちない笑みが漏れます。
僕は上の空でした。


「あの子は、ちゃんと森を抜け、一人で村へ帰れるだろうか。」

「…エマは…優しい良い子ですから、森の木々や花や虫たちも彼女をお気に入りです。愛されていますからね、大丈夫ですよ…。」

瞳に光が無い。
その為か、エマは人々が聞き漏らしてしまう様な彼らの小さな言葉にも耳を傾け、彼らの想いを受け取れる純粋な子でした。


「…幸せな子だな。」

ロマはそう呟いて柔らかく微笑みました。

かつての勇ましさは、どこへいったのでしょう。
儚く、見えたのです。


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