ユピテルの神話
エマは僕の元へ来るなり、村の出来事を語ってくれます。
あそこの家に赤ちゃんが生まれた、やんちゃな男の子が木登りに失敗して怪我をした…
どんな些細な情報だろうと僕に伝えようとするエマは、人々の変化に敏感でした。
瞳が光を映さない分、より過敏に空気を読み取れるかの様でした。
考えてみれば、
この時には彼女や村人に、少しずつこれまでに無い変化が訪れていたのですが…
僕がそれに気が付くのは、未だ少し先のお話です。
ある日の事。
毎日の様に僕を訪れていたエマと喧嘩をしました。
「…エマは僕と違うのですから、村で過ごす時間を増やしなさい。僕とばかり一緒に居てはいけませんよ…」
学校が終わるとすぐに僕の元を訪れ、長い時間を僕と過ごします。
僕ではなく、他の村人と深く関わっていった方がエマの為になる…、そう思ったのです。
「どうして!?」
「もっと友達と過ごした方が…」
「――ユラだって友達じゃない!何が違うの!?」
友達だと思っていたのは自分だけだったのか、そう僕を睨んでいました。
「……」
「…もう、いい!もう来ないわよ!ユラのバカ!」
一方的にエマが怒ってしまった形ではありますが、初めての喧嘩でした。