ユピテルの神話
しばらく、僕の元へはエマは現れませんでした。
しかし、
僕には秘密で、頻繁に森の主を訪れていたと言うのです。
『エマは、ユラの気持ちを第一に考えて会いたいのを我慢しておった。代わりにわしを訪れてはユラの様子を心配そうに聞いていたんじゃよ…』
「…そうなんですか…?」
『…今までは直接ユラに伝えていたんじゃろうが…。わしがお前さんに伝える村の近況も、ほとんどエマがわしに語った出来事じゃ…』
「……あぁ…」
『ちゃんとユラの気持ちを、あの子は分かっておる。あの子は村での人望も厚いじゃろう。お前さんが心配する、「孤立」など全くしておらん…』
エマは、陰で僕を支えてくれていたのです。
嫌われてなどいなかった。
彼女の行動に、
その僕に対する慈しみの心に、
僕の瞳には涙が溢れました。
彼女ヲ、
失イタクハナイ。
「…僕は…、村へ行きます。」
意を決して、
僕は立ち上がりました。
大切な人でした。
例え、ロマの様に…いつかは別れがやって来るとしても。
それは、この時じゃない。
僕は、出来る限り彼女の笑顔を傍で見ていたい。
それが、この時の本心でした。