ユピテルの神話


僕の苦しみを知り、
エマは僕から離れたのです。
…僕を想って。


「…もっと情報が欲しい…」

『そうなんじゃが、…頼りの青い羽虫たちも、最近はあまり此処を訪れんでなぁ…』

そういえば、
僕の家の周囲にもよく訪れては犬竜ロマと遊んでいましたが、しばらくは見ていません。


ワンッ…
『青い虫、忙しい。花の蜜を運ぶの、忙しい。青い虫、言ってた。皆が病気で露いっぱい要るから。』

「…そうだったんですね…。もっと早くから僕が知っているべきでした…」

世界を見守ると約束したのに。
僕は自分の心に怯えるばかりで、周りの人々を見れていなかったのです。

この病は、世界のどこまで広がっているのでしょう。
森の外の人々まで苦しんでいるのでしょうか…。


正しい情報をすぐに知らせてくれる術が必要でした。
しかし、時に情報が人々に混乱を与える事も、僕は知っていました。


「…風…。…『風』を作ります。自由に世界中を廻る者を作りましょう。」

『…風…?』

僕の想いを込めた言葉。

僕の口から出た微かな息が、
風となり…
ぴゅうと、森の主の葉を吹き上げました。


ザワ…
ザワザワ…

森の中に、
葉の擦れる音が響きました。

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