ユピテルの神話


「…風は僕の代わりに世界中を廻り、見てきた真実を伝えます。人々が混乱しない様に、その言葉が通じるのは動けない森の植物たちのみ…」


そうです。
動けない彼らや僕の、
目や耳となるのです。

僕が息を吐く度に、
風が一つ、また一つ…僕らの周りを廻ります。


「…風を仕えるのは森の主の役目。彼ら風は貴方に仕え、情報を囁くでしょう。それを貴方が、貴方の正しい判断で時に人々に与える…」

人々と僕と、
その他のこの世界に生きる者。
全てから中立に物事を判断出来る、森の主。

心の弱い僕なんかより、
彼こそが、
神であるべきだと思いました。


「…森の植物たちの声は小さく、人々に伝えたくとも届かない日もあったでしょう。風たちは貴方たちの声も、人々により届く様に運んでくれる事でしょう…」

ザワ…
『それは嬉しいのぅ。なぁ、森の皆よ…』

ザワ、ザワ…と、
風たちに吹かれた森全体の木々が、喜んでいる様でした。


「…お願いします。皆の情報を、病の情報を…。エマの情報を…」


こうして…、
エマや村人たちの様子を知りたいという想いから、

「世界を廻る風たち」

が生まれたのです。


< 57 / 171 >

この作品をシェア

pagetop