ユピテルの神話
†知恵ノ実ガ与エシ物
†知恵の実が与えし物
ドウシテ…
コウナッテシマッタノダロウ…
コンナ世界、嫌ダヨ…
「…姉ちゃん!エマ姉ちゃん!」
人々の泣き叫ぶ声。
その中で一際僕の耳に届いたのは、エマの弟の声でした。
目の前の崩れた民家。
重なり合う瓦礫を、手当たり次第に必死に退かす少年の姿が在りました。
ロマは…、
彼女の家のすぐ目の前まで到達していたのだと知りました。
もう少しだったのに…。
そんな今さらどうしようもない想いで心は悲しみに溢れ、それと同時にこの被害が一番大きい場所である事に、僕は呆然と青ざめたのです。
「……エ…マ…?」
彼女は、瓦礫の下…。
高熱で静かに眠ったまま、
瓦礫の下。
彼女の笑顔が、
僕の頭の中を過り…、
それが薄れて消えていってしまう様でした。
……嫌ダ、嫌ダ!
そう僕は言葉なく、
首を激しく振っていました。
「――…エマッ!!」
僕は急に身が跳ねた様に、弟と共に瓦礫を一生懸命に退かしました。
嫌ダ、嫌ダ…!
行カナイデ、エマ!!
「……ぁ…」
「…あぁ……!」
僕らの手は、
何かを見つけて止まりました。
瓦礫の下の…
エマの、手でした。