七罪巡り
Good morning. Good bye!
「おいシノ、いつまで寝てんだよ」
頬に痛みを感じて重たすぎる瞼を持ち上げる。まだピントの合っていない目を擦ってみると真っ黒な髪の人間が見えた。
あれ、誰だ。
ぼーっとしていたら今度は息苦しさを感じる。もしかして首を締められているかもしれない。
「やめ、やめろって!」
けっこうしっかり締められて、むせながらも仕方なく起き上がった。
ああ思い出した、こんなひどい起こし方をする奴のことを。
と言うより、なぜ忘れていたのか。
「タキ、もう少しどうにかならない?」
「お前、男に優しく起こされたいのか。変人」
理不尽な切り返しで俺を黙らせたこの黒髪の人間の名前はタキ。
奴の特徴はパッと見女と間違える中性的というかむしろ女性的な顔立ちに、ひとまとめに結わえた髪。それから起こし方や会話ですでに発揮された自己中心的な性格。
明らかに変人なのはそっちだ、と言いたいところを我慢して洗面所に向かう。鏡越しに目が合ったのは、寝起きで機嫌の悪そうなシノ―つまり俺―の顔。
「…ブサイク」
微妙にコンプレックスな垂れ目が、寝起き感を高めている。とはいえ、垂れた目は体中で唯一懐かしさを感じられるところ
「今すげぇぶっさいく。早く顔洗えば?」
考えていたことを遮ったのは当然タキで、顔洗えば?と言ったくせに俺の前に立って『お手入れ』を始めた。
絶対に安くない赤いビンの化粧水をつける姿ももう見慣れてきたような。
「それ、いくらぐらい?」
「別にいいだろ、オレ自身で稼いでるんだし」
今の時代男もスキンケアぐらいしっかりしないとね、とか言って差し出してくれたあの赤いビン。
まさか使わせてくれるとは。
手を出したら空いている方の手でつねられて、反射的に体の後ろへ引っ込めた。
「お前のはあっち」
一滴でも使わせてもらえないなんて分かっていたのに、わざわざ暴力を振るわれるために手を出したみたいだ。