現実(リアル)-大切な思い出-
「あ、チャイムだ」


彗の発言通り、チャイムの音がしている。

これは、開始のチャイム。

どうやら俺は、初めて遅刻をしてしまうようだ。


「行くぞ」


「えー?もう始まっちゃったしさ、サボらねぇ?」

彗は、面倒そうに呟いた。

「ほら、俺は傷の手当もしなきゃなんねぇし」


今の今まで、傷の存在を忘れていたくせに、よく言う。

腫れているわけでもないし、少し冷やせば問題ないだろう。


「ダメだ」


「何でだよ!」


「放課後、居残りさせられるのは御免だ」

そう言って、俺は見上げてくる彗に手を差し伸べた。

「放課後、クレープ奢ってくれるんだろ?」


「!!」


彗は一瞬目を見開いた後、にこやかに笑った。

その笑顔は、今まで見た中で、一番華やかなものだった気がする。


「仕方ねぇな」


彗は手を伸ばし、俺の手を掴んだ。


俺より少し小さな手は、何だかとても温かかった。
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