現実(リアル)-大切な思い出-
朱月と初めて逢ったのは、高校の入学式の日だった。


その日、俺は式に遅刻しそうで焦っていた。

お決まりの寝坊が理由ではない。

余裕があると思ってトイレに行っていたら、時間ギリギリになってしまっただけだ。


その方が問題かもしれないが、過ぎてしまったことは仕方がない。

何も考えられなくなるほど頭は混乱し、俺は焦っていた。


「あ、ちょっと!」


誰かとすれ違ったところで、呼び止められた。


急いでいるのが見て判らないのか!?

不機嫌になりながらも、優しい俺は立ち止まり、振り返った。


「何?俺急いでんだけどっ!」

男子生徒に向かって、俺は怒鳴った。


制服だけでは先輩か同級生か判断することはできないのに、この態度。

自分がどれだけ焦っているのか、よく判る。


「お前も入学式、行くんだろ?」


どうやら、同じ1年生らしい。

それに気付いて、今更ながらに安堵した。


「でも、場所はそっちじゃないぜ?」
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