現実(リアル)-大切な思い出-
火月は、黙って車に乗り込んだ。

昨日までの家族には、目もくれずに…。


「それじゃ、もう行くね」


俺は幸姉とお義兄さんに声を掛け、水月くんに微笑んだ。


「幸矢くん、すまない…」


お義兄さんは、どこか悔しそうに呟いた。

自分の不甲斐なさに腹が立っているような、そんな表情に見えた。


俺は首を振り、小さく頭を下げ、車に向かおうと背を向けた。

そのとき、強い力に腕を掴まれた。

その手を辿るように顔を上げると、辛そうな顔をした幸姉が視界に映った。
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