現実(リアル)-大切な思い出-
「それじゃ、包帯取るからね」


俺は、医師の言葉に頷いて応えた。


スルスルと目を覆っていた物が剥がれ落ちていく。

特別重いわけでもなかったのに、包帯の無くなった瞼はとても軽かった。


「はい、ゆっくり目を開けて…」


あまり自由の利かない瞼をゆっくりと上げていけば、白い色がぼやけて見えた。

白衣だろう。

しかし、数度瞬きをしてみても、視界は少しぼやけていた。


「見えるかな?この指は何本?」


「2本」


医師が差し出してきた指を見て、俺は目を細めながら答えた。

多少ぼやけてはいるが、指の数を判別できないほどでもない。


「正解」

医師が、少し笑ったように見えた。

「多少視界がぼんやりしているかもしれないけど、問題なさそうだね。光に慣れれば、次第にはっきりとしてくるはずだから。また様子を見に来るから、それまで安静にね」


「はい。ありがとうございました」


俺が小さく頭を下げると、医師は俺の肩を軽く叩き、病室を出て行った。


途端に静まり返る病室。

しかし、それはほんの一瞬のことだった。
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