現実(ﾘｱﾙ)-大切な思い出-

「ごめん」


３度目の謝罪を耳にした瞬間、俺は火月を突き飛ばしていた。

それには様々な感情が含まれていたが、一番は“怒り”だった。


「何で出てくる言葉が謝罪なんだよ！？おかしいだろ、何で…」


火月を見上げたまま、俺は動けなくなった。

それは、火月の表情をしっかりと捉えてしまったからだ。

その表情を見た瞬間、俺は全てを悟った。

火月は“知っている”と…。


「‥郷花に訊いたの…？」

出てきた言葉は意外にも普通で、落ち着いていた。


「立花さんと一緒に、この場所で聴いた」


意外にも頭の方は冷静らしく、それが何を意味するのかということは、すぐに判った。


思わず笑いがこぼれる。

よりにもよって、最悪な形で知られてしまったのだ…。


こんな形で知られることを、俺は一番恐れていた。

何故なら、火月を一番追い詰めてしまうと判っていたから…。

しかし何より、醜くて卑怯で自分勝手な俺の本心を、火月にだけは知られたくなかった。


「だから‥だから謝罪ってわけ？」

俺は、蔑むように笑った。

「馬鹿じゃない？それで火月が謝るとか、馬鹿だよ。真相がどうであれ、俺が火月を裏切った事実は変わらないんだよ？俺のせいでお前は家を追い出された‥その事実は変わらないだろ！？」