現実(リアル)-大切な思い出-
「そうだな」


「だったらっ!」

俺はベッドから抜け出し、火月の胸倉を掴んだ。

「憎めよっ!同情する必要もない。怒ればいい‥怒ってよ‥謝るな…」


俺は、慌てて俯いた。


感情的になりすぎてしまった。


どうにか押さえ込んでいた涙が、頬を伝っては床に落ちる。

堪えようと力を入れてみるが、そうすればするほどに、床に落ちる速度は速まっていった。


「俺‥裏切られたことで、水月を憎んだわけじゃねぇんだよ」


「え…?」


俺は、驚いて顔を上げた。

目が合い、火月の穏やかな表情を見て、更に驚いた。

あまりに驚きすぎて、涙が止まったことにも気付けなかったくらいだ。


「いや、それもあるけど‥一番の理由は、水月が俺を嫌っていると思ったからだ」


「どういうこと…?」


「それまでの優しさが全て嘘だったんだと思うと‥本当は嫌われていたんだと思うと、どうしようもなく許せなかった。あの頃の俺は、誰よりも水月が“一番”だったからな」
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