現実(リアル)-大切な思い出-
謝罪など、一番してほしくない行為だ。


俺が「ごめん」と言えば、火月は俺を許すだろう。

俺に同情して、俺のしたことを、昔のことだと笑い話にしてしまう。

だから、俺は簡単に「ごめん」なんて口にできない。

そんな一言で解決するものではないから、これだけの後悔をしてきたのだ。


「だったら、尚更怒れるか」


「っ!?」


火月の目を見て動揺した。

俺に向けられたその視線には、まるで小さな子どもを見るような温かさが宿っていた。


「水月の希望なんて聞けるかよ」

火月はそう言って、小さくため息をこぼした。

「言ったはずだぜ?責められても、謝る気はねぇって…。俺は水月のしたことに関して、許した覚えはない。寧ろ許す気なんてねぇよ。だから、お前が俺に“怒り”を求めるなら、絶対に怒ってなんかやんねぇ」


「カ‥ヅキ…」


「簡単に楽になれると思うなよ?せいぜい苦しめ、馬鹿野郎」


言っている言葉は酷いのに、火月の表情を見ていると、とてもそうは思えなかった。

その視線は、表情は、あまりに優しすぎて‥本当に自分に向けられているのかと、疑いたくなった。
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