現実(リアル)-大切な思い出-
「まぁ‥一生掛けて償ってくれりゃ、許す気にもなるかもな…」


「…」


「だから‥逃げんなよ?自分のしたことから‥そしてこの俺から…」


火月はやはり優しくて、その優しさ故に残酷でもあった。


そんな風に言われれば、逃げられない。

逃げられるはずがない。

頑張れば許してもらえるかもしれないチャンスを‥与えられてしまったのだから…。


「遺書‥今も郷花が持ってるのかな…?」


「あ?」


「返してもらわないと、いけないや」


「‥そんなもん、とっくの昔に破ったから残ってねぇよ」


視線を逸らせながら、気まずそうに呟く火月。

そんな姿に、俺は思わず小さく笑ってしまった。


「そっか‥なら問題ないね」


俺がそう言うと、火月が僅かに微笑んだように見えた。





「いよいよ明日出発ね」


郷花の呟きに、俺はそっと頷いた。


火月と話をしたあの後、手術を受けることを決めた俺は、両親を呼び出した。

その場に居た火月を見て両親は驚いていたが、涙を流して火月を抱きしめる母さん‥そして見たこともないような表情をする父さんを見て、俺は漸く、2人は火月を一度も忘れたことがなかったのだと気付いた。
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