現実(リアル)-大切な思い出-
両親は火月が俺に付き添いたいと言ったことに驚いていたが、決して止めることはしなかった。

俺と火月の関係がどうなっているのか気になっているはずなのに、それさえも疑問としてぶつけてくることはない。

そんな2人を見て、俺はやはり火月の両親だ‥と思わずにはいられなかった。


「郷花には負けたよ」


「何?突然」


荷物整理を手伝ってくれていた郷花が手を止め、俺を見る。

その表情が、普段の郷花とは違いあまりに無防備で、俺は笑いを堪えることができなかった。


「な、何?」


笑われ慣れていない郷花は、困ったように眉を下げる。

それがまた、俺の笑いを誘った。


「ごめん、普段はしないような顔するから可笑しくって」


「それ‥失礼よね?私、一応先輩なんですけど」


「あーそうだったね。ごめん」


「そうだったねって…」

郷花は、呆れたようにため息を付いた。

「で、負けたって何?」


「まさか、カ‥朱月を連れてくるとは思わなかった」


「私の諦めの悪さは、知ってるでしょ?手段は選ばないわよ」


「‥ありがとう」


俺がそう言うと、郷花は眉間に皺を寄せて顔を逸らした。

その表情は悲しげ‥と言うよりは、悔しそうに見えた。
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