繋いだ糸のその色を

彼女の世界

画面のスイッチがパッとついた。
そんな感覚で、静は意識を戻した。

―――ここはどこ?
―――俺はだれ?いやそれは解ってますけど。

お決まりな漫画内のセリフが浮かんで、もしかして記憶喪失にでもなったのかと思い、状況を思い返してみる。

二宮さん―――まず浮かんだその言葉。

大丈夫、覚えてる。
この人さえ覚えてれば俺は何も怖くねーもんね。

静は、周りを見回した。

そこは、あの廃校ではなく果てしなく空間の続いてるような真っ白な場所だった。

上を見ても、右を見ても、左を見ても、下さえみても―――

立っているというか、浮かんでいる気分。


後ろで気配を感じた。
「――――二宮さん!!!」
静は、思いっきり顔を輝かせて振り返る。

そこに二宮さんは居なかった。

その表情は、嬉しいような、戸惑うような、奇妙な感覚で揺れ動く。

あーそっか。これは夢か。

そう実感できるモノが眼の前にあった。
「――――母さん」

そう呼ぶと、母さんはニッコリ笑った。

此処に居るはずのない彼女が、懐かしいその笑顔を向けた。柔らかくも、女一人で静を育てただけある、力強さのある笑顔を。

母さんが死んで、何度こんな夢を見ただろう。
その度、覚めて何度悲しい思いをしたか解ってんのか。

今度は騙されないと、誓っても
何度も何度も、夢に騙されて―――

人間だもの。
つらい現実よりも幸せな夢を信じたい。

静は手を伸ばす。
触れようとした瞬間、母さんはガラスみたいに砕け散る。我ながら、そんなグロい結末が夢の最後。


それなのに、手は母さんに触れた。


手から伝わる暖かさ。
血の流れる脈。

いい加減にしてよ。
そう言って殴り倒したいのに、そんな事できるはずはなかった。


「――――――羽時くん」

今度は正真正銘、その声は聞こえた。

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