そして僕に雪が降る(短編)
「そうですか。」


短く、それだけ答える。年配の男女の話を、僕は半ば夢心地で聞いていた。


なんだか解らない薬品の匂いがやけに鼻につく。


静かな廊下には、ただ彼女が息をしている証である機械の単調な音が声をあげている。


真っ白な壁の間を歩き、短い階段をゆっくり登っていく。


薄っぺらい鉄の扉を開くと、僕の横を冷たい冬の夜風が通り抜けていった。


遠くまで見渡せる屋上。ビルの照明。車のクラクション。空を鳴らす飛行機の音。


ああ。彼女はもう死んでしまうんだろうか。


そんなことを考えてしまうとどうにもならない気持ちがこみあげてきて目頭が熱くなる。


少し落ち着こう。コートの胸ポケットに冷えきった手を入れる。


僕は煙草を取り出すと愛用のオイルライターでそれに火を灯した。


綺麗な銀色に光るオイルライター。彼女が僕の誕生日にくれたプレゼントだ。


二十歳の時にもらったから、あれから二年も経った。時の流れなんて、早いもんだ。


出会ったのは大学のキャンパス。確か大雨が降っていたんだっけか。


びしょ濡れの君に、僕が傘を差し出したんだ。


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