すべての、始まり。~貴方しかイラナイ~
蘭は幼稚園へ入園したばかりで、俺が5歳の時の事。
当時、バイオリンを習っていた俺。
女優をしていた母が、教養の一貫に選んだ物のひとつで。
毎日のレッスンは退屈で、ウンザリしていた。
「拓海、そんな顔をしてはダメよ。
貴方は、東条家の子供なの。
誰の目に留まっても印象良く、常に笑っていなさい」
「うん・・・」
「本当に良い子ね、貴方は!」
ギュッ――
母の叱咤に頷くと、いつも抱き締められていた。
日本のトップ女優として、表舞台に立っていた母。
常に笑顔でいる事など、お手の物だった。
幼いながらに、母の大変さは気づいていた。
東条家の嫡子を育てる、大変さ・・・
だからこそ、常に母の言う事には従っていた。