さよならの十秒前
別れ際。

紗枝は店の出入口で、空を仰いだ。

私もそれにならって、顔を上げる。

雲の切れ間が見当たらない。

「…ねぇ」

紗枝がぽつりとつぶやいた。

「うん?」

「さっきの話。あの男の子」

「…うん」

「お通夜でね。奈緒のお母さんが、私のこと覚えてくれていて」

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