さよならの十秒前
西野のことを思い出した。

私たちはいつか、彼女の死の痛みを忘れてしまうのだろうか。

それは、怖い。

とてつもなく、怖いことに思えた。

拳を握り立ち尽くした修介の背中に、話し掛けた。

「…あのメールの文はね、修介」

修介は振り返らない。

「坂井奈緒が見たかったもの、なんだって」

「…見たかったもの?」

「うん…」

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