さよならの十秒前
修介は、文庫を手にしたまま、こちらをぼんやりと眺めていた。

声を掛けてくれればいいのに。

「修介」

私がそう呼び掛けると、修介は小さく手を振って、背を向けて行ってしまった。

私の視線を追った紗枝は、修介に気付いて、少し驚いた顔をした。

< 59 / 202 >

この作品をシェア

pagetop