さよならの十秒前
「ねぇ」

修介は私を真っ直ぐに見た。

「どうして君達は、奈緒について、病名すら知らないの?」

その言葉が、私の胸をじわじわと侵食していく。

西野の言葉を、思い出した。

坂井奈緒が死んでも、朝は来る。

日々は過ぎる。

私たちの記憶も、どんどん薄れていく。

この病室みたいに。

何かに上書きされて、姿を消してしまうのだ。

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