この世で一番大切なもの
レイヤのグラスに薄めに酒が作られる。

ホストは酔いすぎてはいけない。

客の目が少し離れている隙に薄めに酒を作ってしまう。

客のは普通に作る。

こういうずる賢い頭がないと、とてもやっていけない。

「よっしゃー。カンパーイ!」

レイヤが女と乾杯する。

「乾杯一気、乾杯一気、乾杯一気!!」

レイヤがコールする。

「え~」

女は、とまどいつつもグラスの酒を飲む。

レイヤも飲み干す。

また酒を作る。

もちろん女にだけ普通に酒を入れて、レイヤには入れた振りをして僅かにだ。

「レイヤさん。ひど~い!!」

「俺が着いたんだから盛りあげねえとな!」

レイヤは恐ろしいほどのハイテンション。

よくこんなブスな女の前で楽しそうにできるなと尊敬した。

申し訳ない気持ちで一杯だった。

レイヤの期待に答える為に俺は頑張らなくてはならない。

「俺とレイヤさん、どっちがタイプ?」

俺は女が困る質問をする。

「え~何それ~きゃ~」

女はもう酔っているのか喋り方が少しおかしい。

おまけに俺と付き合っているのに、こんな質問に即答もできない。

どうしようもない女だ。

「じゃあ、顔だけ、見た目だけだったらどっち?」

レイヤが質問する。

さすがレイヤだ。

上手く女が早く答えられるように仕向ける。

「顔だけだったらレイヤさんかな~」

俺は好きでもない女でもこれには頭にきた。

しかし冷静にならなくてはならない。

「グイグイ!グイグイ!グイグイよしこ~い」

俺は女のグラスを無理矢理口に押し付けて、飲ませる。

「ごめ~ん」

女は酔っ払いながら謝る。

「まずいよ~。俺がいくらカッコイイからってさ」

レイヤが突っ込む。

「でもね、聞いて聞いて」

女が言う。

ベロベロだ。

「顔はレイヤさんがタイプだけど、私が愛してるのはリュージだけ!」

そう言って女が抱きついてくる。

「ひゅ~ひゅ~」

レイヤがからかう。

「ノーロケ!ノーロケ!」

レイヤが女に無理矢理飲ませる。

「もう無理~」

女はそう言って横になって寝てしまった。







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