この世で一番大切なもの
直也が機械に何度もカードを入れたり出したりしている。

直也はニヤッとした。

「リュージ。三十万は無理だったけど、二十万使えたよ。おめでとう」

「ありがとうございます」

良かった。

俺は喜びで胸が一杯になった。

「まだ喜ぶのは早えぞ。すぐ財布に戻して来い。女が起きたら酔っ払っててカード使っていいとか言ってた、とか嘘つけよ」

「はい!どうもっす!」

俺は急いで席に戻る。

女はグーグー寝ている。

ちょうど隣の客はトイレでいないようだ。

運がきている。

俺は素早く、カードを財布に戻した。

後は女が起きた時に、上手く言い逃れるだけだ。

女は酔っ払って記憶も曖昧だろう。

ブスな顔が、更にブスになった寝顔をしている女を見て、俺の良心は少しもその時痛まなかった。

俺は悪に染まっていた。

この女はどん底に落ちるだろう。

借金地獄だ。

二十万そこらなら何とかなるだろう。

そう思うしかなかった。

女はひどく傷つくだろう。

だが俺には関係ない。

殺したナオが俺を裏切ったように、俺も裏切るほうに回る。

この世は正直者がバカを見る。

正義なんて忘れた。

信じるなんて二度としない。

俺は生き残るんだ。
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