秘密の幻
その日
アドレス交換をして
バイトが終わった後、
初めて
一緒に帰った。
夜9時半頃。
航が私の手に触れた。
心臓が
飛び跳ねた。
とくんっ
と音がした。
私は
航の顔を見れずに
下を向いた。
そして
手を握った。
長い長いまっすぐな道を
手をつないで歩く。
時間って
こんなに
短かったんだ。
あっという間に
分かれ道。
右が航の家へ続く道。
左が私の家へ続く道。
私は
『航……また一緒に帰ろうね』
と言った。
『………………』
無口な航は
何も喋らない。
そのかわり
航は私の口にキスをした。
軽くて
空気みたいな
キスだった。
私は走って逃げた。