臆病なサイモン






俺が産まれた時、そりゃぁもう、幸せな家族の図、ってやつが例に漏れず繰り広げられた。

都内にある、ハッピー産婦人科なんて頭お花畑な病院の病室で、「おとこんこが産まれたゾーイ」なんていうテンションで、父親は俺を抱き上げてライオンキングごっことかして、母親はそれ見て笑ったりして。

「幸せな家庭」って、こういうの言うんだぜ、ってなるじゃん。




えりこ。

こうたろう。

これ、うちの親の名前。

俺の両親は、ふたりとも典型的な日本人だ。
真っ黒の髪、太い眉、ぺちゃ鼻、イエローな肌、ちょっと控え目な性格。
強いて挙げるなら、父親の身長が、日本人域を抜いて、ひょろっと高いくらい。

産まれたての俺の、産毛のような頭髪が金色でキラキラしていることを笑ってネタにしたそうだ。

「このアメリカ人顔負けのキンパツが黒くなる頃には、この子は僕をパパと呼んでいるかな」

なんてな。
赤ちゃんの髪の色が変わるのなんて良くあることらしいから?
ハッピーに満ち溢れたようなジョークなんか飛ばしたりして、幸せだったわけ。


――でも、そんな幸せが終わるのは、ジョークがジョークで済まなくなったのは、そりゃもう、早かった。






「あんたってば、スーパーマンみたいだったのよ」

親戚のオバチャンに聞く限り、赤ん坊の俺は乳離れも早く済み、歩くのだって人より早く、まぁ空を飛びはしなかったが、逞しく育ったそうだ。

最初は猿みたいだった頭部も、それに伴ってふさふさと髪が揺れるまでになった。

ただひとつ普通の子と違ったのは、産まれつきのキンパツが黒色に変色することは、なかったということ。


なんでかって?

聞くかい、ブラザー。

いいさ、別に。

大したこっちゃねぇし、もう過ぎたことだ。


まあつまり、こういうことよ。





『…挙式の前、金髪のアメリカ人と浮気したの』

あ、コレ?

このセリフはさ、うちのかーちゃんが言ったセリフ。

長男の髪の毛がさ、羊水ん中でブリーチでもしてたんかっつうくらい、見事なパツキンだったから、とうとうさ、キレちゃってさ、うん、そう、うちのとーちゃんが。

で、問い詰めてきたとーちゃんに言い捨てたセリフがこれよ。


爆笑だろ?

ジョークがジョークにならねぇ瞬間。


……恐ろしいよな。





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