臆病なサイモン
挙式前、バーで酔っ払ったかーちゃんに声をかけてきた日本語ペラッペラのアメリカ人。
キンパツきらきら、目はインクみたいなブルーで、色白。
で、もうわかったろ?
つまりそのアメリカ人が、俺の、ガチで、マジモンの、父親だってわけ。
遺伝子ってコエーよ。
なんなんだよな、優性劣性てあるじゃん。ついこの間さ、習ったじゃん。
キンパツが果たして優性なのか、俺にはわかんねえけど。
俺の遺伝子は、俺を裏切ったんだ。
「お兄ちゃんはイイなぁ。ひとりだけ、なんか違うもんね。金髪アタマかわいいー!」
なんてキュートなこと言いやがるのは小学生の妹。
こいつは黒豆のような髪色に、ぺちゃっ鼻、太い眉、おちょぼ口、という両親にそっくりの顔をしている。
で、俺とは似てない。
母親は一緒だってのに、片っぽの人種が違うだけでこうも違うんかと、俺だってやさぐれた時はあったさ。
もうさ、「家族」の定義からぽっかり浮いちまってたから、笑える状況じゃなかった。
親戚が集まったって、キンパツなのは俺と疎遠のヤンキーだけ。
シャレになんねぇ。
マジでいたたまれねえよ。
黒、黒、黒、金、黒。
て感じ。
歳の離れた妹はそりゃあ可愛かったけど、その黒髪が、俺とは全然チガウ生き物なんだってゆってた。
髪の毛が喋るわけじゃないから、それは俺が勝手に感じとってた妄言だけどさ。
『オマエなんか家族じゃないぞ』
って言ってんだ。
妹や母親、父親の黒い髪の毛が、俺を責めるように。
な、悪夢だろ?
でもグレた期間は、そんなに長くなかった。
これってすげぇ無益なことだな、てかカッコワリィ、って気付いたからだ。
遺伝子なんか今更イジれないし、それよりなにより、グレたって、なんにも変わらなかったから。