臆病なサイモン







「サイモン、追試終わったら一緒帰ろうぜ」

だから、ってんじゃないけど、俺は理科クラブに入ってる。

「あ、ワリ。今日部活だったわ」

遺伝子で痛い目をみた俺は、劣性優性の授業を習ったその日に入部した。だからまだ日は浅い。
部員は俺ひとり。去年は八人居たらしいけど、俺が入った時点で他の部員はいなかった。
主な活動内容は天候観察と称して「屋上」で、「ダラダラする」こと。と、たまに昆虫採取とか?

つまり、まーさ、屋上は俺のベストプレイスってやつ。
ちょっとヤなことがあると、大体ここに入り浸る。

おっとぉ、根暗って言うのはやめて。自分でもわかってっから。

ハァーイ、俺、根暗クンでぇす。

バカとなんとかは高いとこが好きって言うけどさ。
地上より高い位置にある屋上は、教室や家なんかよりずっと空気がフリーダムだ。
風にぴゅーぴゅー吹かれていれば、今悩んでいる自分のキンパツだとか、父親のことだとか、ちっぽなことなんじゃねぇのかな、って、そんな気分になる。


ペッタペッタ。

だから俺は、この日の放課後も同じように屋上に向かった。
学校指定の便所スリッパで、あの異様な空気を溜め込んでいる屋上への階段を登る瞬間とかたまんねぇ。

理科クラブの特権で、屋上の鍵のスペアを手に入れた俺以外は、誰もやってこない。
それがまた、なんとも特別感を醸し出していて、薄気味わるーい入口も、なんかヨク見えるわけ。

ペッタペッタ。

毎日のように入り浸ってるから雲の形くらいしか変化ねぇけど、でもだから、俺には、イイ。



(「ダンゴ」のせいで、ちょーっとムシャクシャしたけど)

それこそ大した問題じゃない。
ほんのちょっと昔の誰かサンに、ほんのちょっと、誰かサンが似てただけ。

それだけじゃん。
ヘイブラザー、気にすんなよ。明日にはまたガッコがあるんだぜ。



ペッタペッタ。

だから、いつもと違うのは追試が終わったあとだってことで、普段より外が薄暗いってことだけ。
校庭で走り回ってる運動部の声だけが、妙に遠くに響く。

これもいつものこと。

――変化は、それだけの筈だった。

のに。





「…アレ」

ボロい扉が、ノブ触っただけでギィて、開いた。

鍵かかってねぇ。やべ、センセーでもいんの?

思わず後退って、見つからないように扉の隙間から屋上を覗く。
梅雨あけのナマっぽい風が顔面叩いてくんのがキモチイ。

じゃなくて。



「……ん?」


センセーはいなかった。

けど、セーラー服は、いた。

バッサバッサ、スカートが跳ねるのも構わずに、セーラー服着た女子生徒は仁王立ちしてなにかを見てる。

夕焼けは、終わったよな?

じゃあ、なんだ、あ、街のイルミ?ここからなら良く見えるもんなー。

……じゃねぇ、誰?





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