臆病なサイモン
『―――似てないね』
そうだ確か、この言葉を言われた時も、夏だった。
今よりずっと蒸し暑くて、冷えた畳がきもちくて、俺の微睡みを見守っていた「父親」を、俺は。
『どうして、墨汁なんか被ったんだ…?』
解っていたくせに。
知っていたくせに。
俺の金色を無意識に見つめては、苦しそうな顔をして。
『…ごめんな』
「ホンモノ」になれない自身を責めて、クソガキの俺なんかに、頭を下げて。
俺はその時、どんな顔してたんだっけ。
「オトウサン」と呼ばなくなったのは、いつからだっけ。
『―――似てない、ね…』
おれの、ねがいごとは。
「……また、あの人を、「オトウサン」て、呼びたい」
ぼと。
なにか、落ちた。
それは白いシーツにシミを作って、その一滴で枯れる。
それが少し寂しくて、なんか、辛くて。
口にしたら、ぜんぶ、壊れた。
あ、
て思った瞬間、また溢れて、落ちる。
見つめ合ったまんまのダンゴが、小さく目尻を垂らしたのが辛うじて見えた。
溺れた視界に焦って、慌てて目を閉じる、情けない、俺。