臆病なサイモン







「やっぱりロンリネス…」

案の定、教室には誰もいなかった。
校庭や道場には、朝練中の部活生はいたけど、校舎内で生徒はほとんど見かけない。
生徒会の奴らや放送部やらはともかく、普通の生徒がホームルーム一時間前に登校なんかあり得ねえだろ?
クラスマッチの練習なら別だけどさ。

「ふー」

しんとした教室には慣れていない分、なんか新鮮だった。
窓を開ければ、昼よりも涼しい風が吹いてくる。



(っても、ヒマなもんはヒマだし)

仕方ないから音楽でも聴いてよー、てなって、鞄ん中からアイポッドを取り出す。

今日はなに聴く?ブラザー。

リンキン?
リンビズ?

あ、シカリのアルバム入れてたじゃん。

じゃあ今日はそれでいこーぜ、て、超クールな出だしに頭がカチ割れそうになった瞬間だった。



ガラララッ。




「…おはよう」

脳髄にガンガン響くニュー・レイヴをBGMに現れたのは、そんなまさかの再登場、段このえ。

クールな顔付きにセーラー服…そのバランスが妙に曲にマッチしてて羨ましい…じゃなかった。
ボリューム上げてたせいで段このえの「おはよう」は聞こえなかったけど、口の動きでわかったから。

「…おは、よ」

そりゃ、挨拶は大事だろ。

「あ、」

しまった。
もうちょっと捻ればよかったかもしれない。
ちょっと古いけど「おっはー」とか、タイムリーな「ちゅーす」とか。
ぽっちゃりブラザー、俺にはお前みたいなプレイは無理みたいだ。

で、そんな未熟な俺に課せられるのは、ひとりのときより断然重い沈黙。

(…なにか話題とか。昨日のお笑いネタ?いや待てよ、それ外したらジ・エンド)

リスクの高い賭けには出られない。そう俺はいくじのないA型。

朝の早い転入生は昨日の暴君ぶりはナリを潜めていて、ゆっくりと席に着いた。

でもやっぱり無言。
静かだが、穏やかで清々しい朝の空気は一転した。
だだっ広い教室ん中で、言語を習得している人類が二人いるのに、無言。
漫画とかでよくある、「しーん」て効果音が良く似合うあの感じ。

なのにプレイス(席)は、隣同士。
この気まずさ、あんまりじゃない?

この偏ったグラフで無言。

せめて残り半分のスペースにトトローでも置いてみりゃ丁度いいんじゃね?
あ、ダメだ。トトローは喋らない。



「……」

ちら、と段このえもとい「ダンゴ」を盗み見したら、なにやらじっとなにかを見つめている。
代々使い古されてきた机の、傷や落書きをただ黙って眺めていた。

(と、思われる…)

つまり全身から「話し掛けるな」オーラが放出されてるわけ。

その雰囲気が尚更、俺を気まずくさせてるんだぜ、ダンゴォ。

と言ってやりたい。でも、言えない。

あぁそうさ、俺はチキンさ。

でも、昨日の屋上での件を考えると、話し掛けようにもなに話していいか、俺、ほんっとわかんないの。

逃げちゃったし、俺。





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