臆病なサイモン









「…おはよう、よく寝てたな」

リビングのソファから掛けられた穏やかな声に、肩が跳ねた。


(あれ、今日、仕事じゃなかったっけ…?)

こんな時間に「彼」が居るのは珍しい。

まさか思いもしなかったから、完全に不意打ち。


(どうしよ…)

母親はもうパートに出掛けてるし。

(…困る)

ふたりきりは。

なにを話せばいいのか、解らない。




「お兄ちゃんたら、寝坊だよー!」

悩んでいたら、キンと跳ねるような声が飛び出して、正直、ほっとした。


ふたりきりじゃ、ない。



「…はよ」

見たら、妹と「父親」が、仲良く黒髪を揃えてテレビを見てた。

「アナログ」て文字が表示された画面の、画素の荒い画面を背景にして「父娘」の偶像。

…なんちて。

かっこいいこと言ったつもりでダサい。

自分があの輪に入ったら違和感ありまくりだろうに。

(あ…、なんか自分で想像しといて、ショック、受けた)

ばかじゃん。





「今日、プールに行くんでしょう?」

妹が父親の横から身を乗り出して目をキラキラさせる。


嫌な予感。







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