臆病なサイモン









「…お願いがあるんだぁ」

どこで覚えてきたんだそんな猫なで声!

お兄ちゃん許しませんよ!


…あほらし。





「わたしも連れてって!」

いやなよかん、的中。

案の定、俺の後頭部に甘えた声が豪速球で投げ込まれた。

…いてぇよ。

ゲンコできんだろ。



一先ずソレを無視して、蛇口をおもいきり捻る。

ばしゃばしゃと勢い良く流れては排水溝に落ちていく水に頭から突っ込んで、気分を晴らすように頭を振った。

跳ねる飛沫がタイルや鏡を濡らすことなんて、どうだっていい。

いやどうでも良くないけど。


(カーチャン、ごめん)

良い子は真似しちゃだめだよ。






「……ぶっせぇくな顔、」

濡らした顔を上げたら、いの一番に飛び込んできたパツキンのブサイク。

日本人ぽくない目の形が、似ても似つかないダンゴのビー玉みたいな目にすり変わって、少しだけ気が楽になる。

最近、ダンゴの顔がちらついてばかりだ。

メシ食ってる時、妹がダンゴに見えたり、鏡に映った自分の顔がダンゴに見えたり。


恋しちゃってイェイェーイ!

とかじゃなくて。



(つかむしろ、ホラー…)











< 166 / 273 >

この作品をシェア

pagetop