臆病なサイモン






(そうだ、屋上の話題でも…)

と、思ったけど、「なんで逃げたの」なんて言われたら、俺きっと、復活の呪文が効かなくなるまでエイチピー消費しちゃうから却下。


(あー、やだやだやだ)

こういうの、苦手、俺。
普段はお調子者気取ってるくせに、実はサイモンくんて口下手なんだーってことを、まざまざと実感させられるから。
仕方ねーからホームルーム始まるまでシカリ聴き通して待つべ、と外していたイヤホンを手にした時だった。



「具合、良くなった?」

ビクゥッ。
俺、コントみたいにびっくりたまげた。
絶対にない、と思った「ダンゴ」からのフリに、慌てて横を見る。

いてえ、首の筋、捻った。

いや待て、そんなことより。



「…ぇ、え、え?」

具合て、なに?

多分、間抜けな顔してたと思う、こん時の俺。多少…じゃねーな、100パーしてる。


「昨日、具合悪そうだったから」

「ダンゴ」は…ああ面倒だな、こっからはカッコ外してダンゴでお願いします。

改め、ダンゴが無表情でそう言ってきた。
そこでやっと、昨日の屋上で言われたセリフを思い出す。


『顔色、悪いよ』

心配、されているのだろうか、もしかして。


「…あ、大丈夫。寝たら、よく、なったから」

無表情で人の心配するようなヤツ、初めて見た。
適当なウソを吐くことに良心は痛まないが、イヤなヤツだなーと毛嫌いしていたことはちょっと反省する。


「…だ、段さんは、どうやって屋上に上がったの?鍵、開いてない、よな?」

だから、ちょっと勇気出してみた。
話し掛けられて心配されて、それを適当なウソでかわして終わり、なんて気分悪いじゃん、なんか。

そしたら、ダンゴさん(このへん反省した)は、俺から少しだけ視線を外した。

ほんの少し。

カキーンて、野球部が打ったホームランを追うように、視線が窓の外へ伸びる。
その時の角度で見えた白眼が充血してて、それに気付いた俺は、なんか、おかしなものに触れた気分になった。

俺みたいなガキが触れていいようなものじゃなくて、もっとこう、掴み所なくてふわふわしてて、でも掴んだら、黒い煙になって消えていきそうな、ヤバイもの。




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