臆病なサイモン
(昔か……)
そういえば、俺がまだガキん頃、この市民プールには家族でよく泳ぎに来てた気がする。
墨汁を被ったあの夏も、確か、来てた。
(俺のご機嫌とりに、みんなで遊びに来たんだっけ…)
「あの人」は、チビな俺を抱っこしながら、日がな一日こどもプールで遊んでた。
…遊んで、くれた。
素直に嬉しかった俺は、無邪気にきゃっきゃきゃっきゃ遊びまくって、そんでそんな俺に、「あの人」は。
『 』
……あれ。
なんて、言ったんだっけ。
俺にだけ聞こえる声で、あのバリ渋の、「父親」の声で、俺のキンパツを撫でながら、静かに放った言葉が確かにあった筈なのに。
俺はその一言を、ずっと宝物みたいに抱えていて、大事にしてたことだけは、覚えてる。
なんだったっけ。
―――確か。
「よーい、ドンっ!」
いきなり掛けられたスタートに、慌てて水面近くが温くなったプールに顔を付けた。
がぼっ、と抵抗を受けた顔が歪む。
ゴーグルを付けた視界は青いプラスチック製で、プールに漬かっている人間の下半身が、まるでただの木のように生えている。
キモス。