臆病なサイモン










「小学生じゃないんだから、迎えに来たってなにも変わらないのに」


けれどそう言ってくれたことが、本当に嬉しかったから。


迎えなんて、いいよ。

私は大丈夫だよ。

そう言えば、良かったのに。


平気だよ、大丈夫だよって、笑って言えば良かったのに。





「―――その翌日、私を迎えに来る途中で事故に遭うなんて、知りもしないで」


ばかだよね。


言葉尻が消えたのは、俺の聞き違いじゃないはずだ。

だけど。




「…、」


―――聞き違いってことに、しとく。


静かに涙を流すダンゴは、パチもん映画の「ケイコ」なんかとは比べものにならないくらいリアルで。



ごめんね。

ごめんね。

なによりも、幸せだったということを、貴方達に伝えたかった。



―――そんな心が聞こえた気がした。


だから、肘掛けでぎゅうと握られていた手を、恐る恐る、そっと握る。

小さな手は柔らかく湿っていて、俺が包んだ瞬間、体温で氷が溶けてくみたいに、力を抜けていった。




『君なら、大丈夫だよ』



…これで、おあいこな。









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