臆病なサイモン
「俺は、そんなこと一度だって考えたことねえよ!なにも知らないやつが、偉そうな口きくな!」
そうだ、頬だ。
俺はたったいま、ダンゴの頬を打った。
柔らかな肉を叩いた筈の手が、めちゃくちゃ痛い。
勢い余って立ち上がった視界で、上からダンゴを睨み付けて。
―――それなのに、勝てる気がしない、のは。
(…俺が、弱いからだ)
ジリジリと沸き上がる、伝わらない焦れったさが苦しい。
うまく、言葉が出てこない。
でも、それでも、聞いて欲しい。
俺は、そんなこと。
「…っ俺の頭は、確かにキンパツだけど、俺の父親は、「あの人」だけだって、ずっと思ってきた!」
―――俺には、あの人しか、居ないのに。
。
「できねぇ逆上がりの練習に日がな一日付き合ってくれたのも、こどもプールで一緒に遊んでくれたのも、キンパツ気にして、墨汁を被った俺に半泣きで謝ってきたのも、ぜんぶ、ぜんぶ、オヤジだけなんだよ……!」
血も繋がらないキンパツヤロウの「父親」を、必死でやってきてくれたのは。
「―――俺のオヤジは、あの人だけだ!」