臆病なサイモン










『似てないね…』


それでもずっと、心の中で呼び続けてきたんだ。




「…っひ、っう」

ずっとずっと、声にしたくて、笑顔を見たくて、それでも、ビビってばっかで。

俺が「オヤジ」なんて呼んだ日には、「お前は俺の子じゃない」なんて、否定されてしまいそうで。

そんなこと、言うわけがないと、するわけがないと、解っていたのに。


ヒトの心は複雑で、怪奇で、移ろいやすくて。

いつ、「あの人」が俺に愛想を尽かせてしまうか、本当に怖くて。

ゴールにそんな悲しみが待っているなら、じゃあ俺は、必要以上に近付かなきゃいい、って、諦めてた。




「…君が呼ばなきゃ、意味なんてないんだよ」


俯いて嗚咽を堪える俺の頭を、両手で包み込む暖かな体温が、頼りなくて。



「君が頑張らなきゃ、先へは進めない」


だいじょうぶ。

今、君は、一歩踏み出せたから。



「サイモンなら、できるよ」

魔法の言葉は、いつだって鮮明。

そうして慰められながら、叱られながら、俺は赤ん坊みたいに手を引かれて、なんとか細い道を歩いていける。


情けないけど、それが精一杯だった。







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