臆病なサイモン
「…あれ、」
無意識にホンダの姿を追っていたら、なぜか、首が進行方向とは逆を向いていた。
(…なにしてんだ、アイツ)
ホンダとスネ夫ファミリーは、この場に居る大勢が向かっている体育館とは全くの逆方向に向かって進んでいた。
あっちには教室しかない。
(忘れモン…か?)
まさか集会サボる気とか?
あのホンダに果たしてそんな度胸――とは言わねえか、この場合――があるとは思わないけど。
「―――ハッ!」
そこで嫌なことを思い出す。
屋上へ向かう階段の踊り場で、ダンゴによってたかって罵詈雑言浴びせてたスネ夫ファミリーの姿を。
(……まさか、また?)
たらり。
真夏の押しくらまんじゅう状態の、今のこの状況からくる汗とは全く違う汗が垂れた。
冷や汗。
ダチンコが、今週の音楽チャートについて話し掛けてきてたけど、それどころじゃない。
色んなやつらが行き交う中で、ダンゴのお団子頭を必死になって探した。
(…居ない)
似たような白いシャツの群れが、俺の目を地味に刺す。
―――居ない居ない居ない。