臆病なサイモン
居ないじゃん、と絶望した時だった。
「…あ、」
背中にぽす、と柔らかい感触。
冒頭の「あ、」に、聞き覚えがあったから慌てて振り向く。
「…ごめん」
そこに居たのは、見慣れたお団子頭。
細い目を上に向けて、こちらを見上げている。
ちょっとずつ笑ってくれるようになっていたダンゴが完璧な無表情なのには、周りに人が居るからだって、解っているけど――妙に慣れない。
「押されてぶつかりました」
どうやら周りにひしめく生徒達に押しやられたらしい。
バランスを崩したダンゴが俺の背中にぶつかった、と。
世の中、うまくできてるわ。
…なんて御託はともかく。
「…居た」
思わずほっと息を吐いて、小さくそう囁いてしまった。
周りのダチンコらは気付いていない程度の呟きで済んだらしい。
唯一、聞こえたらしいダンゴは、意味が解らないと首を傾げた。
「…や、なんも、ないよ」
ダチンコの手前、それだけ言ってまた前を向いた。
ダンゴが居るならいいんだ。
ホンダのやろう、ややこしいことしやがって。
(…じゃあ、なんで教室に?)