臆病なサイモン
「……、ダン、」
ダンゴ。
そう呼べなかったのは、人目が気になったからじゃない。
ひっそりと黒板の目の前に立つダンゴは、いつもの姿勢で、いつものお団子で、でも、その視線、は。
『―――段このえは』
黒板が、いやに煩かった。
シロやピンクやキイロのチョークを使った、カラフルな文字。
見知らぬ写真が何枚かセロテープで貼られていて、隙間隙間になにやら細々とした文章が書かれていた。
『―――親殺シ』
チョークの尖った文字で、黒板一杯に、そう書かれていた。
それは悪意剥き出しで、隠しようもないオドロオドロした黒板がまるでバケモノみたいに見える。
今にもでかい口を開けて、ダンゴに喰らい付いちまうような。
「なんだよ、…これ」
思わず、渇れた声が出た。
教室と廊下の温度差のせいか、廊下の喧しさは教室には入ってこない。
それがまた、この場所に異様な空気を漂わせていた。
ダンゴは黙ったまま、真っ直ぐ黒板を見ている。
此処からじゃ、表情もちゃんと見えない。
ダンゴ、と呼び掛けようにも、出来なかった。