臆病なサイモン









「…なんか、書いてあるぞ」

ざわついていた廊下から、ダチがひとり、そろりと教室に入ってきた。


ダチが指しているのは、隙間に細々書かれた文字のことだ。

神経質そうな文字が、ひとりの人物をゆるりと浮かび上がらせる。

ダチは、躊躇うようにダンゴを一瞥した。

だけどダンゴは、ぴくりともしない。


(…なにか、言えよ)

なんで黙ってんだよ。

こんなことされて、こんなこと、書かれて。




「…転入生、段このえは、前の学校でイジメられていた過去を持ち…、それが原因で―――」


(……なんで黙ってんだよ!)


「両親を…、」


やめろよ、聞かせるな。





「っ、読むな!!」


色んなもんが一杯一杯になって、思わず、文字を読みつらうダチを怒鳴りつけていた。

こんな大声なんか出したことのない俺の剣幕にビクッたのか、ダチはすぐ静かになる。


……あ、しまった。



「ちが、う。あの、ごめん…な」

ダチに悪気があったわけじゃないのに、ダンゴがそれを耳にして傷付いたら――なんて考えたら、ついカッとなってしまった。






< 237 / 273 >

この作品をシェア

pagetop