臆病なサイモン
「…なんか、書いてあるぞ」
ざわついていた廊下から、ダチがひとり、そろりと教室に入ってきた。
ダチが指しているのは、隙間に細々書かれた文字のことだ。
神経質そうな文字が、ひとりの人物をゆるりと浮かび上がらせる。
ダチは、躊躇うようにダンゴを一瞥した。
だけどダンゴは、ぴくりともしない。
(…なにか、言えよ)
なんで黙ってんだよ。
こんなことされて、こんなこと、書かれて。
「…転入生、段このえは、前の学校でイジメられていた過去を持ち…、それが原因で―――」
(……なんで黙ってんだよ!)
「両親を…、」
やめろよ、聞かせるな。
「っ、読むな!!」
色んなもんが一杯一杯になって、思わず、文字を読みつらうダチを怒鳴りつけていた。
こんな大声なんか出したことのない俺の剣幕にビクッたのか、ダチはすぐ静かになる。
……あ、しまった。
「ちが、う。あの、ごめん…な」
ダチに悪気があったわけじゃないのに、ダンゴがそれを耳にして傷付いたら――なんて考えたら、ついカッとなってしまった。