臆病なサイモン
「となり、いいか…?」
低く穏やかで、ちょっとだけ遠慮してる声が背中に掛けられた。
俺のすぐ後ろでキシ、と古臭い縁側が音を立てて、俺は背後に立った人物の影に重なる。
…妹の軽い体重じゃまず床は鳴らないから、声の主はやっぱり、オヤジなんだろう。
「…うん」
ドクドクと緊張してる心臓を宥めながら、俺は顔を上げられなかった。
背後で、妹と母親が妙にくすくす笑っているのが気になったが、どうせまた尽きないガールズトークネタで笑ってるんだろうな、と自分を必死に落ち着かせる。
(「…うん」、じゃなくて、「当たり前じゃん」て言えば良かったかも……)
反省に余念がない俺の隣に、甚平を羽織った体がゆっくりと腰を落ち着かせた。
その時、ふわりとフルーティーな香りが鼻を掠める。
母親の香水でも、シャンプーの匂いでもない。
(整髪剤…?風呂入ったのに?)
不思議に思いながらも、心臓は相変わらずバクバクしてる。