臆病なサイモン
「…俺にも一本くれるか?」
明らかにオヤジには不釣り合いのその香りに首を傾げつつ、俺はオヤジに新しいこよりを一本、手渡した。
シュ…。
また小気味良い音がして、大きくなったり小さくなったり、俺もオヤジも無言のまま、線香花火なんか眺めたりして。
(こんなの、いつぶりだろ…)
緊張はしてるけど、心地いい緊張だった。
見上げた空は、あの日のダンゴと見た空と同じように澄んでいて、手元にある線香花火から散る火花をぶちまけたみたいだ。
(―――きれいダナー…)
まるで、見守っていてくれるみたいだ。
「綺麗なもんだな…」
そんな俺の隣で、オヤジがぽつりと、そう呟く。
体育座りで地道に火玉を落とさないようにしてる俺に、その言葉はじわりと染みた。
楽しいこと嬉しいこと幸せなこと。
今までよりずっと、この人と共有していきたいと思った。
あぁ、なら、頑張らなきゃ。
この火玉が、落ちたら。
「…お前の髪の色に似ているからかな」
火玉が、落ちたら。
「とても、綺麗だね」
ぽとり。
―――火玉が、同時に落ちた。